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かけがえのないもの [Hちゃん(家庭教師)]

Hちゃんのお宅へ、最後の挨拶に向かいました。

例年、日中に伺うことが多いのですが、お母様がお仕事をされていることもあり
夜、家庭教師をしていたのと同じくらいの時刻に。

通いなれた道も最後になります。
ここは、彼が住んでいる街でもあり、結婚にあたって、彼もこの街を出ます。
ですから、これからは、私がこの街を訪れることもおそらく少なくなるでしょう。

毎年の感慨とともに。

迎えてくださったお母様に、おめでとうございます!と挨拶を交わしてから
いつも、この瞬間のために家庭教師をしてきたのかなと思う
Hちゃんの最高の笑顔に出会えました。

合格通知書や色々な書類を見せてもらいながら、途中からはお母様も交えて
おしゃべりを楽しみました。

お母様からは、御礼を頂いたのですが、それとともに、こんな言葉を頂きました。

「先生を信じて二年間ついてきて本当によかったです。本当に…勉強を教えてくださっただけでなくて、
この子に寄り添ってくださって、授業も延長して下さったり、入試前も、この子だけじゃなくて私も本当に精神的に有り難かったです。」

「この子は長女なので、お姉さんみたいな感じで、これからも相談とか乗って頂けたら嬉しいです」
そう言って頂き、見送って頂いて。

帰路。
信号待ちの道で、涙があふれました。

Hちゃんのお母様の言葉が涙腺を刺激しました。

五年前までの私は、確かに、生徒の心に寄りそうことを、何よりも大切にしていて
そして、成績アップとかそんなことよりも何よりも、生徒のことが大切でした。

あの年の秋。
私が受け持っていた中3のクラスのTくんが、塾を辞める、と言いだしたことがありました。
中2の頃は良かった成績が、どんどん下降していた彼は、夏期講習でも大手塾へ行っており、
その後、退塾の申し出があったそうでした。
成績が下降し続けていた彼は、精神的に多少不安定にもなっていました。

その時、私は塾長に言いました。
「ショックです。私の力不足ですけど。すっごく寂しいです」それは本音でした。

塾長は私の言葉を、Tくん本人に伝えたようでした。

その後、まもなくTくんのお母様から、退塾撤回の申し出があったと聞きました。
その代わり、Tくんは、通塾日を一日増やしました。
笑顔で、「先生、先生のために残ったったわ。合格したら好きなもんおごってね」
そう言われました。

私を信じて、残ってくれたのに…それからまもなく、私が塾を辞めた時
その出来事が、刃のように刺さり続けて、胸の奥の鈍痛が続きました。
苦しすぎて、涙も出ませんでした。

あの年に悔んだこと、苦しんだエピソードは数限りなくあります。
けれども、Tくんとの出来事は、そうしたエピソードの中でもとても大きいものでした。

あの後、家庭教師を始めた私は、
どこかで、生徒との間に距離を作っていました。
塾とは異なる家庭教師という環境もあったとは思いますが、私自身、生徒の心の中に入り込むことを
しようとは思いませんでした。
家庭教師として、成果をきっちり出すのは当然。時間内で成果を出すのも当然。
そう思い、塾講師時代は、試験前、毎日のようにしていた延長も一切しませんでした。

私の中には、こんな思いもありました。
誰かと強い関係を築いてしまったら、もしそれが不可抗力で崩された時、
他の相手の授業で、同様の効果を出せなくなってしまうかもしれない。
お互いに傷つくかもしれない。
あくまで「私じゃなきゃダメ」ではなく、どんな講師とでも、そして、生徒が一人でやっていけるように、する方が良いんだと。

多分、それはひとつの見方からしたら正論だと思います。
私が、生徒の人生にどこまでも付いていくこと等できないからです。

ただ、事の是非はさておき、それは、「私らしい」やり方ではありませんでした。

Hちゃんのキャラがなすものもあったのかもしれません。
今年の私は、昨年までとは違ったような気がします。

授業をせずに、30分以上、Hちゃんの話を聞いていたこともありました。
(勿論、その分、授業自体は延長しましたが。)
試験前、どうしても、完成したい部分のために、一時間も無料で延長したこともありました。
(勿論、お母様の許可は頂きましたが)

生徒の部活の発表会に行く、というのもこれまでにないことでした。

部活の引退時にはプレゼントを渡したり、何かの時には手紙を書いたり、と
けっこうこまめに向き合ってきた気がします。
それも、意識したわけではなく、気付けば自然に、やりたいからやっていた、という風でした。

かつては、学芸会や体育祭などに顔を出していたことを思い出しました。


生徒の合格は何よりもうれしい。
けれども、そこから得られたものは、人と人との繋がりから生まれる、プライスレスのこんなに大きな感動。
久々に感じました。「絆」の美しさを。

Hちゃん、Hちゃんのお母様、二年間指導させて頂き、本当にありがとうございました。

また会える日を楽しみに・・・。





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コメント 6

tyuuri

 教え子との別れはいつも辛いものがありますね。
 わたしも、今年度最後の授業は、副担任だったクラスで、終わりとなる間際にクラス一同からの寄せ書きをもらいました(担任の配慮)。次年度は学年が変わるので、同じ学校にいるのに授業で会うことはないでしょう。
by tyuuri (2012-03-25 17:20) 

エイミー

>tyuuriさん
副担任だったクラスで寄せ書き!素敵ですね。
生徒との別れはいつも辛いですが、合格しての別れとなると、「晴れ晴れとした寂しさ」でもあります。最後まで指導させて頂ける、ということ、当たり前のようでいて実は当たり前ではない、という有り難みを感じながら、これからも進んでいきたいと思います。


by エイミー (2012-03-27 00:52) 

tyuuri

 ちょっと気になっていたのですが、結婚後もお仕事は続けるんですか? ウチの妻は子育てが一段落したあたりでパートに出ていましたが、現在は完全に主婦専業です。
by tyuuri (2012-03-27 17:19) 

フラン

素敵なお話をありがとうございます。

本当にそうですね。
人間として、個人と付き合うことが、やはり「絆」を作っていくのでしょうね。

私は逆に最近、非常勤と言う立場のためか、授業内だけでの付き合いになるためか、どうも生徒達と距離を置いてしまう傾向にあります。

卒業式の後も、各クラスで担任と・・・なので、生徒からわざわざ来てくれることでもないと、なかなか個人的に話も出来ない状態で・・・。
ちょっと寂しいな・・・と思っていました。

やはり、個人対個人の関係は、温かさを感じますよね。
by フラン (2012-03-28 19:00) 

エイミー

>tyuuriさん
当面続けますが、今の塾が今年で終了(塾長自己定年のため 笑)ですし、その後はどうしようかな~と悩み中です。個人で家庭教師などできるといいのですが。
by エイミー (2012-03-29 22:31) 

エイミー

>フランさん
コメントありがとうございます。
お嬢様方も新たなステージへの旅立ちですね!

やはり、学校ですと担任の先生との絆がより強くなるものなのかもしれませんね。
でも、私、学生時代、いいな~と思う非常勤の先生もいらっしゃいました!

個人対個人の関係を築けるのは家庭教師や個別指導講師の喜びかな、と思います。一人一人の生徒と、思い出があり、物語がありますね。
by エイミー (2012-03-29 22:34) 

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